実績紹介

改修事例 Sマンション(東京都新宿区)

雨漏れ、水漏れからの脱却、健全化の道のり

建物概要
Sマンションは、1973年に竣工した鉄筋コンクリート造5階建て、約1,600㎡、約48戸の分譲マンションである。
1戸当りの床面積は約25~40㎡と、現在の一般的なマンションと比較するとコンパクトだが、時代背景や新宿区柏木地域という立地を考えると、近隣に多くあった木造アパートを、鉄筋コンクリート造に変えて高層化した建物と言えるだろう。
管理組合は、新築時から現在まで、自主管理方式により運営されており、自主管理型小規模高経年マンションの典型的な1例として考えてみたい。

建物の現状
耐震診断の結果は、NG(大地震の揺れに対して崩壊、倒壊する危険性がある)となり、耐震補強が必要であることが判明した。
建物の劣化状況は、躯体、防水、仕上、建具、建築金物、設備等多岐に渡って劣化の進行が散見され、建物全般について大規模な修繕・改修が必要であることが判明した。特に、屋上のシート防水が殆ど機能しておらず、最上階の住戸に雨漏りして、居住環境に著しい悪影響が生じており、一刻も早い改修が必要な状態であった。
また設備では、高置水槽や地下受水槽は衛生面、耐震性に大きな問題があり、こちらも早急な改善が必要である事が判明した
その他、バルコニー天井の鉄筋爆裂、アルミサッシの劣化、玄関ドアの開閉騒音など、改善要望が出され、大規模修繕等の総合的な再生工事が必要な状況であると判断された。

優先改修工事
優先改修の対象は、長期修繕計画において、屋上防水、耐震化、給水設備、排水設備に絞り、その中の、緊急度の高い屋上防水改修と給水設備改修を1期目の工事とし、設計に時間を要する耐震化と排水設備改修を2期目の優先改修工事と位置付けた。

屋上防水改修工事
築45年の間に都合3回の屋上防水全面改修を行ったことになる。平均15年に一度、屋上防水を更新していた計算になり、一般的な屋上防水の修繕周期よりかなり短い周期で、屋上に投資を行っていたことになる。このため今後は、このような短いスパンでの投資を避ける視点が必要と考えられた。一方手元資金が限られていることもあり、既存の防水層と水分を含んだ断熱材は全面剥離し、初期費用を抑えた塗膜防水の断熱無しの仕様と、初期費用はかかるが高耐久で長期的にメンテナンス費用が少ない熱アスファルト防水の上に断熱保護層を設ける仕様の設計を行った。実際の工事見積をベースに、後者の長期費用優先型かつ断熱性能向上型の仕様を選択することになった。

給水設備改修工事
まず機械設備の竣工図面は分譲主から引き渡されなかったという事実から始まるが、それはさておき、築17年目に早くも1回目の給水設備改修が行われる。竣工時の共用給水立て管は専有部分である室内のパイプスペース内に敷設され、構造躯体に埋め込まれた玄関脇の小さなメーターボックスまで「共用部分扱いの枝配管」が専有室内をスラブ上コロガシ配管にて横断していた。そのため、露出配管にて更新されることとなったようだ。まさに、維持管理を考慮しなかった1970年代の設計を象徴するような出来事で、築50年前後の共同住宅によくあることだ。
各戸メーター以降の専有部分の給水管は、この築17年目の工事時にライニング更生工法による延命処置を施すこととなるが、専有部分であるため「希望者のみ」戸別負担で実施するという扱いになった。2015年に行ったアンケート調査によれば「赤水が出る」と答えた方は17%もあった。(Ⅱ期工事完了後にわかった事であるが、建設当初の給水管は「亜鉛めっき鋼管」であったと思われる)
この築17年目工事時は躯体兼用地下式受水槽と屋上高置水槽には手を付けなかったが、後の2回目の給水設備改修工事(2016年度の第Ⅰ期優先改修工事)において、増圧直結給水方式へ切り替える共に耐久性の高いステンレス鋼管(埋設部は高密度ポリエチレン管)に再更新することとなる。これにより共用部分の給水設備は更新を終え、将来に渡っての「安心安全」を手に入れた。
既存給水設備は、地下コンクリートピットの地下受水槽と、FRPの円筒型屋上高置水槽が設置されていた、地下受水槽はコンクリート素地のままで防水処理が施されておらず、衛生上問題があり、高置水槽は、水槽自体の耐震性能が低く、さらに水槽と鉄骨架台の緊結が不十分で、大地震時に水槽が落下する懸念があった。
これらを改善するために、構造上更新が難しい受水槽と、耐震化の難しい高置水槽は廃止して、増圧直結給水方式に変更する工事を行った。屋上防水改修と合わせて工事したため、高置水槽の鉄骨架台の撤去跡は、屋上と一体的に防水する事ができた。また、共用部分の給水竪管等は劣化が懸念されたため、全て更新を行った。
既存給水ポンプは、東京都建築安全条例で定める窓先空地部分に設置されたコンクリートブロック造のポンプ棟(小屋)に設置されていたが、コンクリートブロック造の小屋は全て撤去した。

施工前後の様子